カチャ・・・ ―――





自分の部屋に戻りしっかりと鍵をかけ終えると、ドサーッという勢いでサクラはベッドに倒れこんだ。

先程までの出来事が、走馬灯のように頭の中をクルクルクルクル駆け巡っている。



(せ、先生とキスしちゃったぁぁぁぁぁ!)



胸の鼓動は、もはや早鐘を打つどころではなかった。

頭に血が上りまくり、意味不明な叫び声が勝手に飛び出してくる。



「キャー!キャー!キャー!どうしよう!? えーい、もう、あーん、シャーンナロォーーー!!」



ああ、本当に一人暮らしでよかった。こんな姿、親には絶対見せられない。

枕をギューッと抱きかかえながら、嬉しさと恥ずかしさのあまりくねくねと身悶え続ける。



もちろんこれが、サクラにとってはファーストキスで ―――

ファーストキスだからこそ、夢やこだわりがずっとあった。



(物凄い濃厚なキスもあるらしいけど・・・)

 ――― いきなりそういうのは嫌だった。



(やっぱり最初は優しく夢見るように・・・)

 ――― そっと触れるだけのキスをしてほしい・・・。



まさにカカシとのキスは思い描いていたもの、そのものだった訳で。





「はぁぁぁぁ・・・・・・」





 ――― 先生の顔が頭から離れない。優しく抱きしめてくれた腕の感触がずっと残ってる・・・。




「キャー! カカシ先生ー!!」


興奮のあまり、枕を羽交い締めにしてボコボコと拳を打ちまくる。

見事に変形した枕。



「・・・ダメダメ・・・落ち着け、落ち着くのよ。 サクラッ!!」








もう何度も何度も思い起して、何度も何度もうっとりして、さすがに段々と冷静になってきた。


(キスしてくれたってことは、先生も私のこと好きって思っていいのかなあ・・・)


実は、カカシのくれたキスの意味をどう受けとっていいのか、ずっと図りかねていた。


(好きっていう意味なら、嬉しいけど・・・。でも、酔っ払ってたしなぁ・・・)


果たして一人前の女と認めてもらえたのか、それとも単なる酔った勢いだったのか、どうにもよく判らない。


(好きなら好きって、普通ちゃんと言ってくれるよね・・・)




子供じみていると解っているけれど、サクラはまだまだ恋愛にいろんな夢を持っていた。

例えば、自分はシンデレラで、カカシは白馬に乗った王子様。

どんな事があってもちゃんと探し出して、しっかりと捕まえていてほしい。



そういう展開を、いつも夢見ているのだが。



でも、カカシにとっての恋愛はまったく違うものなんだろうと、何となくは解っていた。


(だって先生は、大人だもの・・・)



自分の幼い恋愛観を知ったら、笑われるかもしれない。

大人の恋愛はそんな奇麗事じゃない、と。

あれ位のキスは、ほんの挨拶代わりのようなものだ、と。



(そうよね・・・。 先生にとったらあんなキス日常茶飯事のことで、たいした意味はないのかもしれない・・・)



常にカカシの周りには、取り巻きのくの一たちがはべっている。

それはみんな大人の女性で、同性から見てもドキドキするほど魅力的で、大人の恋愛を知り尽くしていて、

サクラには太刀打ちできない何かを持っている人たちばかりだった。


(そんな人たちに囲まれている先生が、子供の私を本気で相手にする訳が・・・ない・・・の、かな・・・?)



なんだか、一人ではしゃぎまくっていた自分が、だんだん滑稽に思えてきた。



(・・・先生、どういうつもりでキスしてきたの? もしかして・・・、ただ、面白半分にからかった、だけ?)



だとしたら ――― 

物凄い勘違いをしてしまった自分は、一体なんなのか?



(判んない。 判んないよー・・・。 カカシ先生・・・)



例えそれが勘違いでも、それでもカカシを追い求める気持ちには変わりはない。

カカシにちょっとでも触れてしまった今では、むしろ今まで以上にカカシを想っている。

でもそれが、全て報われないものだとしたら・・・。




不安な気持ちが悪い思考を呼び込み、更に不安になって・・・、そのまま堂々巡りをしてしまっている。





結局一睡もできないまま、朝を迎えた。